【野球/統計学】送りバントは無意味なのか? 統計学で検証する
2017年の野球シーズンも広島、ソフトバンクに引っ張られて盛り上がりを見せましたが、そんな中で気になる記事を目にしました。
「送りバントは“消えゆく戦術”なのか!? MLBで激減する理由を探る - スポーツナビ」(2017年9月14日 菊田康彦)というSports Naviに掲載された記事です。
記事によればMLBでは、2017年シーズンはMLB全体で本塁打の数が増えている一方で送りバントが減少の一途を辿っているというのです。
その裏には、送りバントは有効な作戦ではない、という統計学を用いた検証結果の存在が見え隠れします。
今回は、送りバントの有効性と近年のトレンドについて、分析したいと思います。
送りバントを統計学的に検証!
以前、「マネーボール」という映画が話題となりましたが、映画のように統計学を用いて野球のデータを分析を行い、それを選手獲得やチームの戦術に活かすという動きが目立つようになってきました。いわゆるセイバーメトリクスです。
日本でも送りバントの有効性の統計学的な分析が、東京学芸大学の及川研准教授や統計学者の鳥越規央氏によって行われています。(参考文献は一番下に記載!)
一般的には「バントすれば大量得点は狙えなくても、1点を確実に取れる」という印象が浸透していますが、彼らの検証結果ではどうなったのでしょうか。
早速見ていきましょう!
【結論1:送りバントしても得点確率は変わらないし、得点の期待値は下がる】
バントが選択されるケースとしては、無死一塁が多く見られます。
及川氏の研究では、2005年の日本のプロ野球の公式戦を対象に無死一塁のケース3994回を分析しています。
まずはバントをするケースです。
この場合の一塁走者の進塁率は81.6%、生還率は37.6%、そのイニングの得点期待値は0.73点となっています。
ではヒッティングという強硬策をとったときはどうでしょうか。
一塁走者の進塁率は40.7%、生還率は36.5%、得点期待値は0.86点となっています。
進塁率はバントしたときの方が2倍近く高いです。納得ですね。
しかし、生還率は1%しか変わりません!さらに得点期待値はバントした時の方が低いというのです。
先ほど「バントすれば大量得点は狙えなくても、1点を確実に取れる」と一般論を説明しましたが、バントしたときの得点期待値が低いので、「バントすれば大量得点は狙えない」は正しいと言えます。
問題は「1点を確実に取れる」です。確かに1%ほど確率が高まるようです。1%です。
ここまででわかったことをまとめましょう。
「バントすると大量得点は狙えないけど、強硬策をとったときよりも1%得点確率が上がる」
及川氏の研究では、バントについてやや残念な結果となりました。1%でしたから。
でもその1%が大事かもしれません!結局試合に勝てればいいんです。勝てれば。
え、バントすると試合に負ける確率が高まる?そんなはずは。。
【結論2:送りバントすると負ける】
次は鳥越氏の研究を見てみましょう。鳥越氏は、勝利確率というものに注目して分析しています。
勝利確率とは、野球における様々なシチュエーションにおいて、その状況でそのチームがどのくらいの確率で勝利できるかを計算したものです。
鳥越氏の結論は、無死一塁の状態から1死2塁にした場合、勝利確率は下がるというものでした。どのイニングでバントしてもこの勝利確率は下がっていたというのです。
ここまででわかったことをまとめましょう。
「バントすると大量得点は狙えないけど、強硬策をとったときよりも1%得点確率が上がる。けど負けやすい。」
なぜバントがよくないのか、原因を考察する
バントに関して散々な結果となってしまいました。しかしなぜこのような事態になるのでしょうか。原因を私なりに考察しました。
私の仮説は
- 打てないバッターにはバントをさせ、打てるバッターには強硬策をとるから、強硬策の成功率が高い
- バントして進塁させると、3番4番打者の持ち味が消える
まず仮説1です。そもそもヒッティングの強硬策を監督が指示するときは、超打てるバッターが打席に入るときだから、強硬策の成績が良いのはそのせい、というバッターバイアス仮説です。
仮説2は、バントして2塁まで進めると次のバッターは単打狙いになり、長打が持ち味のバッターだった場合、その持ち味が失われる、というものです。
ここで及川氏の研究から一つ面白いデータを紹介します。
2番打者が無死一塁でバントした場合、進塁率は89.9%、生還率もは44.0%。
2番打者が無死一塁でヒッティングした場合、進塁率は45.0%、生還率は44.3%。
得点期待値はバントをした場合が0.80点なのに対し、ヒッティングは1.10点。
なんと2番打者にバントさせると、得点期待値はもちろん、生還率も下がっているのです。これは一死二塁になったときの後続打者の成績がぱっとしないためかもしれません。
そもそも、3番4番打者は長打を打てるバッターであり、走者は足が速い1番打者なので、走者1塁でも長打一本で十分得点できます。2番打者の打力を考えても、ヒッティング狙いの方が得点のチャンスが大きいのは納得感がありませんか?
最近のバントトレンド~日本はアメリカの4倍~
2016年シーズンを見ると、バント回数はMLBは1試合平均で0.21。対して日本は0.80であり、MLBの4倍バントをしていることがわかります。
MLBでは、近年強打者を2番に置くことがトレンドとなりつつあります。
2016年に39本塁打、102打点でリーグMVPをとったカブスのクリス・ブライアントも2番に置かれることが多かった選手です。
他にもブルージェイズのドナルドソン、ドジャースのシーガーなど20本塁打を超える長距離砲を2番に起用する球団が成功を収めています。
2017年は日本でも楽天がペゲーロを2番に起用するという、2番強打者戦法が注目を集めました。
個人的には2番にバントをさせない、豪快な野球に惹かれたりもするのですが。。
果たして2番強打者説は今後どこに向かうでしょうか。
【参考文献】
及川研・栗山英樹・佐藤精一:『野球の無死一塁で用いられる送りバント作戦の効果について』、「コーチング学研究」、第24巻第2号、2011