AIはそう簡単にヒトの仕事を奪わない。コストダウンでない付加価値を生む仕事からAIは導入される
ロボットが人の仕事を奪う?奪うのはまず弁当の盛り付けから
AIやロボットが人の仕事を奪う、という話を頻繁に聞くようになりましたがその中で疑問に思うことがあります。そんなに簡単に人間がロボットに取って代わられるのだろうか、というシンプルな疑問です。
人間の方が優れているのはイレギュラー事態への対応
みなさんはどんなときにロボットが人の仕事を代替するようになると思うでしょうか。一般的に考えられている条件は下記の2つでしょう。
- ロボットの性能が向上し、ロボットでも人間のしている仕事ができるようになる
- ロボットの方が人間よりも安いコストで仕事ができるようになる
つまり、ロボットの方が人間よりも「安く」「仕事ができる」ようになったとき、人間がロボットに取って代わられるというものです。至極まっとうな見解に聞こえます。
しかし私には2つ目のコスト条件が引っかかります。
人間がロボットと比べて圧倒的に優れているのは、イレギュラーな事態への対応の柔軟さです。
例えば工場を想定しましょう。通常の運転フローでは、ロボットの方が人間よりも効率的に作業が行えていたとします。しかし、もし異物混入が起きたからすぐに探し出せ!というイレギュラーな事態が起きたとすると、その対応まで柔軟に行ってくれ、とロボットに求めるのは難しいのではないでしょうか。
単に通常の運用フローでロボットの方が安く仕事ができるだけでは不十分で異常事態やイレギュラーな運用にどこまでロボットが柔軟に対応できるのかが重要です。そこまで考えると、そんなロボットって安い値段で手に入るんだっけ?と思うわけです。
ロボット導入が進むのは以下の2つの基準を満たす仕事だ!
その点を踏まえて考えると、私はロボットが人間の仕事を代替するような分野は当面以下の2つのどちらかを満たす仕事だと考えています。
①イレギュラーな運用なんて滅多に起きないような仕事
②ロボットに行わせると、コスト削減以外の付加価値が生まれる仕事
ここまで話してやっと本題です。①はみなさん既に納得のことだと思いますので置いておきます。例えばRPA導入のような話は①の作業をロボットが代替しているケースだと私は思っています。今回の論点は②です。
そうです、世の中には人間が行うよりもロボットに行わせた方が付加価値が生まれる仕事が存在するのです。私はこのような仕事からロボットが導入されていくと考えています。何を言っているのかイメージが湧かないでしょうか。実例を挙げていきましょう。
コンビニのお弁当はおばちゃんよりロボットが盛り付けたほうが美味しくヘルシーになって賞味期限も伸びる
現時点ではおばちゃんが盛り付けを担う
コンビニに行くと様々な種類のお弁当が置かれています。幕の内弁当に唐揚げ弁当などなど。このお弁当って誰がどのように盛り付けているかご存知でしょうか。
機械化されてるんじゃないの?と思ったあなた。違います。これはパートのおばちゃんたちが盛り付けているのです。
なぜ現時点でロボットによる自動化がなされていないのかというと、コンビニ弁当は具材が頻繁に変わり、かつ唐揚げ一つ一つが微妙に大きさも形も違っているため「イレギュラーな対応」が頻繁に求められる作業だからです。
ロボットが行うには難しく、やれたとしても性能の高いロボットの開発が必要になります。単にコスト削減の観点から行くと、おばちゃんを雇っておいた方が安上りだし楽だと言えるのです。
カギはロボット導入による低温管理、つまりチルド化の実現
しかし、この作業はロボットにやらせるべきです。
なぜならロボットが詰めたほうがお弁当が美味しく、そして長持ちになるからです。コンビニ弁当の賞味期限は生産してからおよそ3日程度ですが、具材を詰める作業を低温環境ですべて行えた場合、賞味期限が大幅に伸びることが予想されます。
雑菌は暖かい環境で繁殖するため、弁当生産から配送までのあらゆる工程を低温環境で行えれば菌の繁殖を抑えることができ、防腐剤の使用量も減らせるはずです。つまり、美味しくヘルシーで長持ちするお弁当ができあがるわけです。
実際、チルド弁当は低温環境で生産されたお弁当ですが、ふつうのお弁当よりも賞味期限が1日から3日ほど長く、防腐剤も使用されていないことが多いようです。
(賞味期限が伸びることによってコンビニ店長がどれほど助かるかは、下の記事にて解説!)
冷蔵庫のような環境では人間が盛り付けを行うことはできません。おばちゃんたちが凍えてしまうからです。
お弁当は配送する際は低温環境で配送されるため、現在常温環境にさらされている工程は、この盛り付け作業の工程であると考えられます。盛り付け作業が低温管理を妨げているボトルネックなのです。
そして凍えるおばちゃんを無理やり働かせることができない以上、ヘルシーで美味しく長持ちするお弁当ができるかどうかは盛り付け作業をロボットが担えるかどうかがカギになっているのです。
ロボットがコスト削減以外の付加価値を生み出すかどうかがポイント
このように、お弁当の生産においてはロボットに担わせることでコストが安くなる以外に「美味しくヘルシーで長持ちする」という付加価値が生み出されることになります。
このようなロボットが付加価値を生み出す分野でまずロボットが人間にとって代わっていくはずです。
逆に、コスト削減のみしかロボット導入のメリットがない場合、よほどイレギュラー運用が起きない作業以外ではまだしばらくロボットが人の仕事を奪うことは起きないのではないでしょうか。
ロボットに任せた方が付加価値を生む仕事は他にもいくつか思いつきます。例えば車を人間が運転するよりもロボットが運転する方が安全に運転できるとしたら、「安全性」は付加価値になるでしょう。
災害救助用のロボットや危険な工事現場での作業を行うロボットも人が入れない環境下でも作業できるとしたら付加価値です。
最近では、最新のAIを用いた(あるいは用いた風を装った)あらゆるロボットの開発が進められていますが 、そのロボットってほんとに必要なの?普及するの?という点を考えるときにコスト削減という観点だけでなく、そのロボットが人間に作業させるよりも付加価値を生み出すのかどうかが重要なポイントになるのではないでしょうか。