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男もすなるブログといふものを元外資コンサルもしてみん。なんやかんやで今は起業した会社の経営者。

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縮小する豆腐市場でシェアを激増させた相模屋食料は設備投資のお手本だ

相模屋食料という企業をご存じでしょうか。10年間で売り上げを5倍伸ばしたトンデモナイ企業です。しかもイケイケのIT企業ではありません。豆腐屋です。

この相模屋食料は売上40億円の2005年に売上と同じ40億円規模の投資を行い新工場を建設するという無謀とも思える決断をしています。しかし、それを機に超成長企業への歩みを進めていったのです。

この相模屋食料は、業界課題を技術をもって解決する、そのお手本となると感じましたので紹介させて頂きます。

大企業の存在しない豆腐市場

豆腐は特殊な性質を持っています。それは、「賞味期限が短い」、「すぐ崩れるのでパック詰めは手作業で実施」という性質です。

まず賞味期限が短いため、豆腐は在庫として抱えることができません。少しでも長く持つ豆腐がつくれればいいのですが。。

そして在庫を持てないため、「明日は暑いから冷ややっこ用の豆腐が多く売れそうだ」といった需要の波がそのまま発注量の波となります。生産ラインを全自動化して短時間に大量の豆腐を生産できれば需要の波にうまく応えることができるのですが、豆腐はなんといっても崩れやすい。機械によるパック詰めは不可能であり、手作業に時間がかかっていました。

賞味期限が短く、納期に対して製造に時間がかかるため、近所のスーパーに豆腐を届けるのが精一杯。市場は地域ごとに細分化されていました。

実際、2005年当時、豆腐市場は6千億円の市場に1万3千もの事業所がひしめき、しかも売上100億円を超える企業は存在しない、極度に細分化された市場構造となっていました。

2005年一世一代の大投資へ

当時の相模屋食料は売上30億円程度の中堅メーカーに過ぎませんでした。そんなある日、6000坪の土地を買わないか、という話が持ち上がりました。前々から計画していた投資規模は10億円だったのに対して、6000坪を超える新工場にかかる費用は40億円。

こんな博打に乗らない方がいい、という声もある中、婿養子として雪印から転職してきた鳥越氏は当時社長の義父とともにここが勝負どころだ!と打って出ます。

なぜ勝負どころだと考えたのか

鳥越氏は40億円をかける新工場を、ただ安く大量に豆腐を生産する工場にするつもりはありませんでした。「賞味期限が短い」、「製造に時間がかかる」という業界課題そのものを解決する工場を作り上げようと考えたのです。

そもそも豆腐はなぜ賞味期限が短いのでしょうか。雑菌は35~40℃で最も繁殖します。豆腐をパックに詰める作業は人が行っていましたが、そのままでは豆腐が熱すぎて詰められないため、水にくぐらせながらパックに詰めていました。そのときに雑菌が繁殖しやすい40℃程度になってしまうのです。もし熱々のまま豆腐を詰められれば雑菌は繁殖せず、賞味期限は伸びるはずです。

製造に時間がかかるのもこのパック詰めの工程が原因でした。豆を水につける⇒煮る⇒にがりを混ぜて寄せる⇒整形して切る⇒パック詰め、これらの工程の中でパック詰めだけが自動化できていなかったのです。何しろ、豆腐はやわらかく、機械で持ち上げてパックに詰めるなんて不可能だったからです。

鳥越氏はここに目を付けました。パック詰めさえ自動化できればいっきにこの2つの課題を解決できる、と。

パック詰めも自動化したフルオートメーション工場の誕生

悩みぬいた鳥越氏はある解決策をひらめきました。

豆腐を持ち上げてパックに入れるのではない。パックを持ち上げて豆腐にかぶせればいいじゃないか。

大志を胸に工場の建設にとりかかるも、そこは苦難の連続だったと言います。試運転したら、他工場と品質の違う豆腐ができた。連続稼働させたら途中から味が変わった。温度や湿度によって出来上がりが異なった。しかも、こんなフルオートメーションの豆腐工場は誰も経験したことがないので、機械の適切な微調整の仕方は誰にもわからず、四苦八苦。

1000項目に及んだという改善活動を続けて完成したのが、豆腐生産のフルオートメーションを実現した第三工場でした。

そして圧倒的な参入障壁が、この1000項目の改善活動によって築き上げられました。似た発想で機械を導入しても、どう微調整すれば一定品質の豆腐ができるのか、その制御ノウハウは一朝一夕で真似できるものではなかったのです。

完成した工場とともに大躍進

この工場が2005年に完成してから、10年で売上5倍。業界初の売上100億円企業どころか近年では200億円も突破しました。

これほどまでに成功を収めたのは、新工場の目的が「コスト削減」ではなく、「新しい価値の創出」にあったからです。

賞味期限の短い豆腐。完全機械化で、人の手では触れない熱々の状態のままパック詰めまで実施。その結果、雑菌の繁殖を抑えることができ、賞味期限が伸びました。

さらに冷却しないことで新鮮さが保たれ、味も良くなったと言います。

製造に時間がかかる豆腐。機械化できていなかったのはパック詰め工程でした。機械化によって生産時間の短縮にも成功しました。

味はよくなり、賞味期限は伸び、短時間で出荷できる。

安く大量に作ることだけを考えた工場とは一線を画しています。この業界課題に真摯に取り組み、無謀ともいえる設備投資を断行し、どの企業も生み出せなかった新しい価値を創出した。

これこそが相模屋食料の成功の要諦です。

なお、相模屋食料の熱い物語はこちらの本に詳細が載っています。ここ1年で読んだ本で最も価値ある一冊と言っても過言ではありません。ぜひ読んでみてください。

「ザクとうふ」の哲学

「ザクとうふ」の哲学

  • 作者: 鳥越淳司,夏目幸明(構成)
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/09/12
  • メディア: 単行本