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男もすなるブログといふものを元外資コンサルもしてみん。なんやかんやで今は起業した会社の経営者。

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経済学を知りたくなった社会人におススメしたい本

経済学を知る本

大人になってからちょっと経済学を勉強したい、理解したいという人におススメしたい本を紹介。

経済学にはいくつかの大きな思想派閥が存在していますが、まず最初に簡単に私の理解を述べておきます。(*間違っていたらコメントなどで指摘してください!!)

①自由市場を愛する派

アダムスミスに始まり、20世紀前半はハイエク、20世紀後半ではミルトン・フリードマンがこの派閥の親玉といってよく、政治経済界も20世紀後半から2000年初期には自由主義が非常に勢いを持っていました(リバタリアンなどとも呼ばれます)。時代としては、レーガンサッチャー・中曽根といった指導者が台頭した頃です。ノーベル賞シカゴ学派と呼ばれるこの自由主義の分野ばかりから選ばれるような時期でした。

この派閥は徹底的に小さな政府を目指し、政府はでしゃばるな、可能な限り民間に任せるべきだ、それが市場を効率的に回すための最適な方法だと主張します。

国営企業の民営化をはじめとする施策もこの流れを汲んでいるといえるでしょう。(最近の日本では竹中平蔵さんが自由主義の色合いが強いですね)

②政府が積極的に介入したほうがいいよ派

政府はひっこんでろ、という自由主義に対して、政府の役割の重要性を説いた代表者がケインズです。民間の消費が落ち込んだ時は、政府の財政を出動させることで消費を刺激したり、公共事業で雇用を生み出すことが必要である。大きな政府も大事だ、という主張です。この主張は世界恐慌後のニューディール政策などの論拠になっていきます。

最近のアベノミクスなどは、政府が経済に積極的に影響を与えようとしているという点ではケインズ的かもしれません。アカデミアではMMT理論がこの流れを汲んだ最先端なのではないかと思います。(たぶん・・)

③そもそも前提である合理的人間というのがおかしいよね派

①vs②でいろいろやってるけど、経済学が前提としてきた合理的に判断する人間というものがそもそも怪しい。人間は結構不合理だし、ロジカルじゃない判断によって実際経済は動いている。そのあたりをきちんと理論に組み込んでいかないと全然ダメじゃね?というのが③の派閥です。

代表的なのは、ゲーム理論行動経済学と呼ばれる分野です。

近年ではこの分野への注目が高まっており、ノーベル賞ゲーム理論行動経済学の分野からも受賞する人が増えてきました(ここ15年間で3回行動経済学の分野から受賞者が出ました)。国内でも研究している人が多くなってきた印象を持っています。特に東大はゲーム理論が強い印象です。

他にもマルクス主義なんかも大きな派閥ですが、ご存じの通りソ連の崩壊とともにやや衰退したので上記の3つを頭に入れておいてもらえればと思います。では本の紹介に移りたいと思います。 

 

 

資本主義と自由

自由主義の親玉ミルトン・フリードマンによる一冊。フリードマンは良くも悪くも徹底的に自由な市場を志し、実際に政治的なアプローチを通じて自由経済の実現に情熱を傾けました。

個人的には、日本人は不況になるとすぐに政府がなんとかしろ、という意見に傾くように思っており、民間ですべてなんとかしてやろう、政府はひっこんでろというフリードマン的な気概がもう少し必要だと思っています。

そんな思いを込めつつ紹介するのが、この資本主義と自由という本であり、政府の役割はもうここまで!こっから出てくんな!という線引きをいろんな事例を挙げながら一般向けに解説している本書は非常に刺激的で面白いでしょう。とにかく政府を小さく、可能な限り民間に任せよ、というその思想と情熱の強さはさすが親玉です。80年代の政治経済界に最も影響を与えた1冊といってもよく、池上彰さんの「世界を変えた10冊の本」にも選ばれています。

極論が綴られているということを念頭に読んでほしいですが、まずどういう考えかを知ること、そしてあなたはどこに違和感を感じたか、共感したか、ぜひこの1冊をきっかけに考えを深めてもらえたらと思います。

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)

 

 

企業家としての国家

フィナンシャルタイムズ誌とハフィントンポスト誌が2013年最高の著書に選んだという一冊。この本では、イノベーションの創出における国家の重要性が強調されているという意味でケインズ的で、著者はイノベーションにとってベンチャーベンチャーキャピタルの役割はもちろん大事だが、国家の役割が過小評価されていると一貫して主張します。(M.フリードマンが聞いたらものすごい剣幕で怒りだしそうな主張です。笑)

本書の概要は以下の通りです。

大きなイノベーションの土台になった基礎研究は、政府からの長期間・多額の投資があってこそ成し遂げられており、ベンチャーキャピタルは良くも悪くも利益追求型で基礎研究が終わり実用化に入ろうとという収穫間近のフェーズで投資に入ってくることが多く、次の技術への種まきという投資には十分に積極的ではない。

例えば、iPhoneにつかわれているタッチスクリーン、GPS、液晶画面、リチウム電池・・・はすべて政府による戦略的な長期投資が行われた技術であり、イノベーションの土台において政府の投資が果たす役割は極めて大きい。

現状、政府が基礎研究という極めて不確実性の高いフェーズで高いリスクを引き受けて投資を行っているにもかかわらず、その役割が正しく認識されていない、そして投資に対して十分なリターンを得られる仕組みが整っていないのが課題である。国家が投資企業の株を持つ、知的財産を管理するファンドをつくるなど背負ったリスクに見合ったリターンを得られるエコシステムを目指すべきである。

私としては、自分の主張に都合がいい事例だけを取り上げているような感覚を少し受けつつ、主張自体には一理あるなと思い、かなり興味深く読みました。また日本では政府系ファンドはVC寄りの領域に近づこうとしている気がしていますが、どちらかといえば基礎研究に戦略的に長期投資する仕組みが大事なのでは、と思いました。

資本主義と自由で振れた思想の振り子をこの本を読んで調整してみてください。笑

 

ケインズハイエク

大きな政府か、小さな政府か、20世紀を通じて激論を交わし続けたケインズハイエク

本書は、専門的な内容には過度に踏み込まず、時代背景や主だった考え方、そして人間ドラマに焦点を当てており、経済学にとっつきにくいが興味がある、という人に最適な本ではないかと思います。

ハイエクの「政府の過剰な市場介入による、不況対策の行き過ぎが、次のバブルの原因を生む」という警告は的を射ているようにも思いますし、ケインズの「だからといって公共投資をしないというのは愚策だ。公共投資を毎年のように期待することはよくないが、不況時には必要だ」という主張もそれもそうかなという気がしてきます。

この本を読んで、まず経済界の激論の歴史を理解し、あなたも論壇にあがろうじゃありませんか。

 

予想どおりに不合理

行動経済学に興味を持ったならばまず手に取るべき本はこの1冊でしょう。

経済学の前提となっているのは合理的な人間です。1万円か9千円をもらえるのであれば1万円を迷わず選ぶような人間です。しかしこの合理的な人間像がどうも無視できないほど現実世界では崩れているらしい。

現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する

報酬なしの頼まれごとならがんばるが安い報酬を出されるとむしろやる気が失せる

同じプラセボ薬でも高額なほうが効く

などなど、我々がいかに不合理な存在であるかをおもしろおかしい実験を通して明らかにしていきます。

 

ミクロ経済学の力

東大のスター教授である神取先生が執筆されたミクロ経済学の教科書。

教科書なので経済学を学ぶわけでもない人にとっては無用の長物といえなくもないんですが、ゲーム理論の解説がずば抜けて優れていること、そして終章 「最後に、社会思想(イデオロギー)の話をしよう」の内容がすべての人に読んでほしい内容になっているため、あえて取り上げさせてもらいました。

もし経済学、特にミクロ経済学に興味があるぞ、という人がいたらこの本を手に取ってみてください。読み飛ばしながらコラムだけかいつまむのでも面白いと思いますよ。

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力

 

 

多数決を疑う

最近の経済学では、マーケットを正しくデザインし正しく物事が選ばれるようにしよう、というゲーム理論の応用的な分野が発達してきました(メカニズムデザイン、社会的選択論などといいます)。例えば、オークションを一番高値でかつ一番欲しがっている人のもとに正しく品物がいくように設計する、などです。

本書ではより身近な多数決、という選択方法に焦点を当てます。著者の慶應義塾大学教授である坂井先生は、国内ではこの分野のパイオニアの一人といってよいかと思いますが、この多数決に対して

「多数決ほど、その機能を疑われないまま社会で使われ、しかも結果が重大な影響を及ぼす仕組みは、他になかなかない。とりわけ、議員や首長など代表を選出する選挙で多数決を使うのは、乱暴というより無謀ではないだろうか」

とまでこきおろします。

いかに多数決が信用ならない方法なのか、代わりにどんな投票方法が考えられるのか、ぜひとも読んでいただきたい一冊です。

 

ヤバイ経済学

経済学なんて小難しいからなあ、と思っている人はとりあえずこの本だけ読んでみてください。この本は分類するなら行動経済学の分野の研究に属するかと思いますが、特徴は何よりも取り上げているテーマの面白さです。

中絶の合法化によって犯罪が減ったのはなぜか

日本の大相撲で間違いなく八百長が行われている証拠

生徒の回答を書き換えて成績を良くする教師を見つけ出すアルゴリズムを作ってみた

不動産屋の営業担当者の家は、彼らが担当した家より3%高く売れている

 など、実に好奇心をくすぐられるテーマを扱っています。

データをもとに分析し、仮説を証明していくというアプローチからは学ぶところは多いかと思いますし、数字の面白さを実感できます。数字に強くなりたい、という人も一度この本を軽く読んでみたら数字に強いという意味合いがわかるのではないでしょうか。

 

経済学関連の本の紹介はここまでになります。

また他のジャンルのおススメ本はこちらにあるので、関心があればこちらの記事もぜひ読んでみてください!