現役戦略コンサルタントが語るブログ

元コンサルがすなるブログといふもの

男もすなるブログといふものを元外資コンサルもしてみん。なんやかんやで今は起業した会社の経営者。

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なぜコンサルは激務なのか

 なぜコンサルは激務なのか

先日、なぜコンサルは激務なのですか、という質問を頂きました。

その時は以下のように答えたのですが、もっとこう業界構造的な理由もあるなとこの後考えを巡らせまして、今回は構造的に激務になりがちな理由を書きたいと思います。

 

コンサルファーム間の競争の結果として激務は当然の合理的帰結

コンサルティングという仕事は、工場や機械をつかった活動ではなく、基本的に人が稼働することで価値を生み出す仕事です。仕事の量と質をあげるためには、人数を増やすか、人の稼働時間を高めるか、人の生産性を上げるか、いずれにしても人にまつわるファクターしかありません。

このなかでコンサルファーム間の競争について考えます。A社とB社がある案件を巡って競争していたとします。勝つためには、価格を下げるか、納期を短くするか、成果物のクオリティを高めるか、このあたりで勝負することになります。

A社とB社の人員の質に有意な差がなく、またA社が労働時間を厳格に守る企業だとした場合、B社は毎日の深夜労働をメンバーに強いることでA社の半分の期間で案件を遂行する、あるいはA社よりはるかにクオリティの高い成果物を仕上げることができ、A社に対して強い競争優位を築くことができます。

ホワイトA社に対しては、ブラック労働という戦略が非常に有効であるため、コンサル企業間で正しい競争作用が働けば働くほど、ナッシュ均衡としてはコンサルタントは限界まで働くという状態に帰着すると思うのです。

 

社内のコンサルタント間の競争の結果としても激務になりやすい

先ほどは企業間の競争という観点で考えましたが、次は社内の競争でも考えてみましょう。

コンサルファームに勤務するコンサルタントはある種の個人事業主に近い感覚を持っています。自分の働きが認められなければ、プロジェクトへアサインされなくなり、会社を出ていかなければならないため、コンサルタント間でも一定の競争が作用します。

自分が周りに比べて際立って優秀であることをアピールするためにあなたが採用する戦術は何でしょうか。

成果を得やすい戦術は、めちゃくちゃ長時間働くことです。仕事の質も量も大体は労働時間に比例します。毎日8時間労働しかしないコンサルタントに対して、毎日16時間あなたが働いたなら、かなり高い確率で8時間コンサルタントより高い評価を獲得できるでしょう。もし8時間以上労働するな!と言われても、こっそり働いて8時間で16時間分の素晴らしい仕事をしたことにしたくなるでしょう。

このように社内の競争においても、正しく競争が作用すればするほど、長時間労働をみんなが行うようになると考えられます。

 

長時間労働に対して企業が受けるデメリットの拡大

上記のような背景から、企業としても長時間労働してくれるスタッフがいると他社に対して競争優位が築けるし、スタッフも長時間労働を積極的に行ってくれるから、長いこと何ら長時間労働を改善しようというインセンティブが生じず、結果コンサルは激務というものがカルチャーとして定着したのではないかと思います。

ただ、最近はブラック企業というイメージが採用コストを大幅に上昇させています。あそこはブラックらしいと有名になり、誰も会社に来てくれなくなった場合、コンサルファームは売上の拡大を図れません。単価はそう簡単に2倍、3倍になるものではないですので、人員を2倍にして受ける案件を2倍にしたほうが売上は簡単に拡大します。人の流出のほうが多くなったら、それに伴って売上は縮小します。人が取りにくくなることはコンサルファームにとっては致命的な痛手です。

ワークライフバランスブラック企業への問題意識の高まりとともに採用コストが上昇し、コンサルファームもブラック企業のイメージを払拭するべく意識を持ち始めたというのが現在の立ち位置かと思います。

 

コンサルファームのホワイト化は進むのか

ブラック企業イメージによる採用コスト上昇を解決すべく、多くのコンサルファームでは労働時間の改善を進めています。しかし、ある程度ホワイト企業であるという見え方をされるようになり、また人が採用できるようになれば、それ以上はホワイト化を推し進めるインセンティブはありません。

私がCEOなら、労働時間改善改革をぶち上げ、大々的に社外に発信し、採用コストが下がったところでなんとなくそれ以上のパワーはかけずに有耶無耶にします。

またコンサルタント間の競争の結果として激務になるというメカニズムに対してはメスが入れられていません。したがって、このままいけば、ある程度労働時間は改善するものの、コンサルタントが定時に帰るようなことはまず起きないと思います。これ以上に労働時間を減らすためには市場以外の力を借りるしかないでしょう。

 

本気で労働時間を是正するなら法的制裁以外にない

労働時間ルールを定めたところで、それを破ることで利益を総取りにできる場合、ルールを破るインセンティブは極めて強く、これを抑制するためには、ルールを破った者に対して制裁を行うと示す以外にはないと思っています。

ルールを破ることで他の競争相手を出し抜いて利益を得ることができるが、その結果として社会的に望ましくない状態が生じる、という構造は環境問題にも通じる構造かと思います。

例えば、ハーバード大学レベッカヘンダーソン教授が、環境問題に対して汚染を行う企業を止めることができるのは政府が法的制裁をとると明示的に脅しをかけられるときだ、という趣旨のことを述べているように(資本主義の再構築 p245)、この問題を本気で解決するためには政府による介入が必要不可欠でしょう。

あるいは・・、AIがコンサルタントの肩代わりをしたとき、パラダイムシフトが訪れるかもしれませんが。

またこの考えは、コンサルだけでなく、SEやアニメ制作など機械や工場ではなく、人が稼働することで何かを生み出すという職種全体にもいえるでしょう。機械や工場を扱う場合は、工場の稼働を最大化させることが重要で、人の稼働はそこまで重要な話になりません。人の稼働最大化がコアな競争力になっている職種はすべからく、激務になりやすい構造を持っているということは、理解しておいて損はないでしょう。

長時間労働について、政府が介入し制裁を行うほど重大な社会課題とみなさんは考えるでしょうか。ブラック企業の問題意識の高まりとともに労働市場からのプレッシャーでよい方向に動いてはいますが、それ以上の改善を強力に進めるべきでしょうか。

私はだいぶ長時間労働に慣れたこともあり、まあこういうWork Hardなとこがあってもそれはそれで・・、とブラックな考えによっていくところもありますが、持続可能な未来に向かって世界が本気で取り組む中では前時代的な考えなのかもしれません。優秀な人材の使い潰しや自殺という悲劇を繰り返すわけにはいきませんし。

みなさんはどう考えるでしょうか。