現役戦略コンサルタントが語るブログ

コンサルがすなるブログといふもの

男もすなるブログといふものを外資コンサルもしてみん

MENU

トーキング・トゥ・ストレンジャーズという傑作

アメリカの超人気ノンフィクション作家のマルコム・グラッドウェルの新作「Talking to Strangers - よく知らない人について私たちが知っておくべきこと」が発売された。いまのところ、私が今年読んだ中では一番の本だと感じている。

グラッドウェルの著作はどれも非常に面白く、1万時間の法則を主張した「天才」でも一世を風靡した。今回の作品は、BLM運動にもつながるテーマについての1作になる。一言でいうと、なぜ見ず知らずの他人を正しく理解できないのか(時には正しく理解できなかった挙句、善良な市民を警察が過剰な暴力でもって制圧し、結果亡くなったりする)、というテーマの本であり、私の常識を覆すようなFactや新たに取り入れるべき考え方、コンセプトが多く、非常に学びが多い一冊だったため、私の学びを備忘録と共有という意味で文章にまとめた。

詳細は本に譲るが、私なりに凝縮したストーリーサマリを以下に記す。

  • 我々は本質的には「見ず知らずの人でもまずは信じてみよう」というデフォルトで信用するというスタンスの精神構造が染みついている
  • 相手がどのような人間かを見分けようとするときには我々は対面で話をしたときの表情・雰囲気・仕草といった情報をより重視する
    • 例えば 採用でも裁判でも対面での会話が何より重視される
  • ただし、これは人は嘘をつくとき、悪意があるとき、好意があるとき、みんな似たような表情をし、似たようなリアクションをするはずという前提の上でなければ成り立たない
    • 極端に言えば怒っているときに笑顔を浮かべる人がいたなら、彼のことを我々は正しく判断できない
  • そして、残念で驚くべきことに当たり前に思える上記の前提はしばしば崩れる。それは異なる文化であればなおさらであるし、同じ文化内でも必ずしもみな感情と表情がステレオタイプ的に画一的なわけではない
    • 隔絶されたトロブリアンド諸島の人々は、欧米人の100%が迷わず喜んでいる表情だ、と解釈する表情の写真について、同じ解釈をしたのは58%にとどまった。笑顔1つとっても表情は世界共通ではない
    • そしてトロブリアンド諸島まで行かなくても、例えば友人が亡くなったときに世間が想定する悲しみ方をしない風変わりな人、というものはあちこちに存在する
  • 我々は、ステレオタイプ的でない人を正しく理解し接することに滅法弱い。善良の皮をかぶった悪人、そして悪人と誤解されやすい善良な人について、その中身を見抜くことが我々は本当に苦手である
  • 善良の皮をかぶった悪人を見分けようと社会が躍起になったとき、実際には我々は悪人と誤解されやすい善良な人を大量に摘発することになりやすい
    • 例えば警察は、軽度な違反者に対しても車を停止させ、車内を確認し、運転手と会話し、さらなる重大な犯罪の兆候がそこにないか探し続けることが強く推奨されるようになっている
  • さらに何件摘発したかという量が重要なKPIとして警察官に課されているため、警察官による職務質問、軽度違反者への取り締まり件数は増え続けており、そのなかで、警察官としては怪しいと感じる行動をとる善良な人物に遭遇する確率は高まっている。そして我々は、そのような人物に対して、本当は善良な人なのだと見抜くことを非常に苦手にしている
  • 過剰に疑われ、善良市民らしくない態度から重大な犯罪を隠している恐れがあるとして警察によって制圧される、そして不幸にも亡くなる人が出るというのは確率的に起こるべくして起こっており、その要因は差別や警察個人の判断ミスにのみ帰着させるのではなく、こういった構造の中で理解され、対策が打たれるべきである
  • 具体的には、犯罪の発生はごく狭いエリアの中で集中的に発生する傾向が強いことがわかってきているため、軽度違反者への徹底的な取り締まりとさらなる犯罪の兆候の徹底追及というアプローチはそのような犯罪ホットスポットのなかでのみとられるべきであり、それ以外の場所でこのアプローチをとり続けると、誤解されやすい善良な人物を締め上げるというデメリットのほうが大きいのではないだろうか

 

この本で特筆すべき点は、無実の黒人が警察による過剰な制圧の末に亡くなったというアメリカを沸騰させている一件について、”差別”というフレームワークよりも更に一つ大きな視点の構造の中でとらえなおし、解釈している点にあると感じる。

そして我々が当たり前だと思っていることが、実は当たり前ではないということ、それによって我々の考え方や対応方法を変える見直す必要があること、これをシャープに伝えている点も素晴らしい。

本自体は長いが、実に素晴らしいストーリー展開で飽きることなく読破できる。サマリでは割愛したが、キューバのスパイの話や酔っ払った末での性交渉の同意の有無、拷問の有効性、世界最大の投資詐欺事件、自殺の手段をなくすと自殺は減少する、など大いに関心をそそられる内容が散りばめられているので、ぜひ皆さんも手に取って読んでみてほしい。