現役戦略コンサルタントが語るブログ

元コンサルがすなるブログといふもの

男もすなるブログといふものを元外資コンサルもしてみん。なんやかんやで今は起業した会社の経営者。

MENU

5G×VR×触覚通信のユースケースってエロい方向に、リモートセックスにしか行きつかないと思う件

みんながすまし顔をしてなかなか言わないので仕方ない。ここは自分が言おうと思う。
5Gで変わるのは性産業だ、と。
遠隔セックスの時代が来るんだ、と。
5G銘柄はDMMとTENGAだ、と。(上場してねええ!)

最近、ずいぶんと5G界隈も盛り上がりを見せている。2020年の実用化を目指して、国内通信キャリアは各社とも実証実験やら業務提携やら設備投資やらに余念がない。海外ではAT&TやVerizonなどで既に実用化も進んでいる。5G銘柄などと、投資銘柄としても大きな注目を集めるようになった。

5Gをどう使うか、という議論を具体的に進める段階に来ているわけだが、みんなが意図的に触れないようにしている分野がある。性産業での活用についてだ。

ところで5Gって何だっけ?

本題の性産業を語る前に、5Gの基本情報を軽く説明したい。知ってるわ、という人はマウスの真ん中をくるくるっとまわして飛ばしてほしい。

5Gは5 Generationの略であり、名前の通り第5世代の通信のことを言う。その特徴は三つに分類できる。大容量(eMBB)、低遅延(URLLC)、大量接続(mMTC)だ。

①大容量(eMBB)

より重いデータをスムーズに送れるようになること。水道管でいえば、水道管の直径が大きくなるイメージで正しい。たくさんの水が一度に流れるようになる。
下りピーク通信速度20Gbps、上り10Gbpsを目標値に設定しているほどである。どのくらいの大容量かというと、私の今のポンコツ無線Wifiはさっき測ったらアンテナ1本、上り3Mbpsである。3000倍違う。

3Gではガラケーで画像が送れるようになり、4Gではスマホで動画が見れるようになった。5Gではなにができるかと言えば、4K/8Kの高精細映像、VR/ARといった重いコンテンツが送れるようになる。

②低遅延(URLLC)

より早くデータを送れるようになること。水道管でいえば、水圧が高くなって水道管を流れる水のスピードが上がるようなイメージだ。
0.5ms以内の遅延を目標にしている。例えば、VR/ARでは7msの遅延があると乗り物酔いを起こしやすくなるらしい。

低遅延では、自動運転のようにリアルタイムでの通信が重要なユースケースの実現に期待がかかっている。

③大量接続(mMTC)

同時により多くの機器と通信ができるようになること。水道管でいえば、よりたくさんの蛇口に水を送れるようになるよ、という話。
はっきり言えばIoTを実現できますよ、ということ。

水道管に上水と下水があるように通信も送る側(アップロード)と受け取る側(ダウンロード)があるが、細かい話はそこまで本題に響かないので置いておく。

5Gで触覚通信の要件が揃った

VRや超高精細動画の他に期待されているコンテンツがもう一つある。触覚だ。触覚通信だ。抽象的な説明よりまず実例を見てみよう。

人型ロボット「Pepper」が装着した力触覚伝送用グローブと、遠隔地にいる人間が装着した遠隔操作用グローブの間で、力触覚の情報を伝送・再現する実験を、5Gと4Gの無線通信環境下で行いました。


つまり、あるデバイスで受けた刺激をデータとして送り、遠隔地にある別のデバイスでその刺激を再現する技術のことを触覚通信という。

遅延なく触覚を伝えるには、4Gではダメで低遅延の特徴を持つ5Gが必要なのである。映像と触覚をリンクさせて送るには、遅延があると映像と触覚がずれるということになる。上記のPepperをつかったソフトバンクの実証実験でも4Gではうまくいかず、5Gでは成功したと載っていた。

実験の結果、4Gでは遅延による影響で双方のグローブの動きにずれが発生し、正確に力触覚を再現できませんでしたが、5Gではその特長である1ms(1,000分の1秒)以下の超低遅延性により、遅延による影響を受けることなく、高精度な力触覚の伝送・再現に成功しました。

力触覚情報の伝送における5Gの有用性を確認 | プレスリリース | ニュース | 企業情報 | ソフトバンク

 

触覚通信の使い方(ユースケース

もう察しの良い何人かは触覚通信の可能性を感じ取ったのではないだろか。ていうかそれしか思いつかない。企業のお偉いさんの頭にも必ずよぎるはずだが、彼らは賢者の顔をしてこう言うのである。

「大容量、低遅延の5Gによって実現される触覚通信。これを遠隔医療に活用しよう。」

違う。

「触覚通信で遠くにいるロボットにギターを弾かせてみたよ」

バカなんじゃないか。
 

いや、遠隔医療もギターも使い道としてはあるだろう。
でももっとゲスの極みの発想が真っ先に出てくる。
 

遠隔医療とか遠隔ロボット操作とか言ってる奴ら。俺が代わりに言おう。

「5Gで遠隔セックスの時代が来るってんだよ!!」

VR空間で触覚通信するアダルトデバイスを使った遠隔セックスが実現すると言っている。

これはめちゃくちゃ真面目な話である。

定量的なデータは持ち合わせていないが、圧倒的な没入感を体験できるVRのコンテンツは今のところAVが最も種類が多く、かつ成功しているのではないだろうか。火災現場の訓練にVRを使いたい!というニーズとエロい動画をVRで見たい!というニーズの大きさの違いは計算するまでもないように思う。

触覚通信、VR連携機能を持ったIoTオナホが世界を変える

VRゴーグルとアダルトなコンテンツを買うときにAmazonが「これらを買っている方はこちらの商品も買っています」とレコメンドをしてくるモノがある。何だろうか。オナホである。

今のVR動画は、触覚通信して映像とリンクさせた触覚を何かのデバイスに伝えることはない。しかし、PepperがPoCで証明しているように5G時代ではそれは可能なのである。しかもリアルタイムで映像と触覚を伝えることができる。

自分の自宅にいるAさんがVRカメラを回しながらとあるデバイスを触る。遠く離れた場所でVRゴーグルをかけたBさんはVR空間において、Aさんが目の前にいるように見えつつ、Aさんが触る触覚もとあるデバイスを通じて伝わってくる。大量接続可能な5Gだから、何万人だって何千万人だってBさんと同じ体験をリアルタイムにできるようになる。

VRの映像とリンクし、触覚通信機能を搭載したオナホ。これが登場したとき、性産業にとんでもないブレークスルーが起きると思っているのは私だけだろうか。

どのくらいの感覚が再現できるかにも依存するが、キスの感覚を再現しようとするKissengerとかいうデバイスが開発されている世の中である。セックスの感覚の再現と遠隔伝達に全力を傾ける男/女/その他は間違いなく登場する。

人気の女優と極限までリアルな体験がリアルタイムでできる(別に録画でもいいけど)。配信する側もデバイスを触ったりしてればいいわけで、直接生身の人間を相手にする必要がなくなるから今よりハードルが下がるかもしれない。

もう一つ大事なことがある。VR空間はリアルな人間だけの生息域ではない。2次元のキャラクターとの接触も可能だ。"俺の嫁”と本当に触れ合えるようになる。

このくらいの未来は簡単に思い描ける。

一方で、触覚通信による性サービスを定義し、規制する法律は検討は進んでいるのか。間違いなく進んでいない。性に真正面から取り組まないムッツリスケベな国民性だなあと思う。

相手がいる場合はダメで創作されたキャラクターの場合はいいのか。
遠隔セックスは不貞行為にあたるのか。
配信した側と受けた側、どっちの何を規制して何を罰するのか。
性規制が緩い国から発信されたものはどうなのか。
てか少子化進みまくるんじゃないの。

人間の3大欲求は、食欲、睡眠欲、性欲であり、VR空間のような現実世界でない空間で存分に満たせるのはそのうち性欲である。あとの2つは現実空間でなければ満たせない。

5G×VR×触覚通信で実現し、社会的に最大のインパクトを与えるユースケースは遠隔セックスである。私はそう思っているが、みなさんはどうだろうか。

とりあえずVRだけならもう体験できるので、何のコンテンツを見るかは置いといて、一度試して、VRと触覚通信の未来の断片を感じてほしい。3000円だし。

 

縮小する豆腐市場でシェアを激増させた相模屋食料は設備投資のお手本だ

相模屋食料という企業をご存じでしょうか。10年間で売り上げを5倍伸ばしたトンデモナイ企業です。しかもイケイケのIT企業ではありません。豆腐屋です。

この相模屋食料は売上40億円の2005年に売上と同じ40億円規模の投資を行い新工場を建設するという無謀とも思える決断をしています。しかし、それを機に超成長企業への歩みを進めていったのです。

この相模屋食料は、業界課題を技術をもって解決する、そのお手本となると感じましたので紹介させて頂きます。

大企業の存在しない豆腐市場

豆腐は特殊な性質を持っています。それは、「賞味期限が短い」、「すぐ崩れるのでパック詰めは手作業で実施」という性質です。

まず賞味期限が短いため、豆腐は在庫として抱えることができません。少しでも長く持つ豆腐がつくれればいいのですが。。

そして在庫を持てないため、「明日は暑いから冷ややっこ用の豆腐が多く売れそうだ」といった需要の波がそのまま発注量の波となります。生産ラインを全自動化して短時間に大量の豆腐を生産できれば需要の波にうまく応えることができるのですが、豆腐はなんといっても崩れやすい。機械によるパック詰めは不可能であり、手作業に時間がかかっていました。

賞味期限が短く、納期に対して製造に時間がかかるため、近所のスーパーに豆腐を届けるのが精一杯。市場は地域ごとに細分化されていました。

実際、2005年当時、豆腐市場は6千億円の市場に1万3千もの事業所がひしめき、しかも売上100億円を超える企業は存在しない、極度に細分化された市場構造となっていました。

2005年一世一代の大投資へ

当時の相模屋食料は売上30億円程度の中堅メーカーに過ぎませんでした。そんなある日、6000坪の土地を買わないか、という話が持ち上がりました。前々から計画していた投資規模は10億円だったのに対して、6000坪を超える新工場にかかる費用は40億円。

こんな博打に乗らない方がいい、という声もある中、婿養子として雪印から転職してきた鳥越氏は当時社長の義父とともにここが勝負どころだ!と打って出ます。

なぜ勝負どころだと考えたのか

鳥越氏は40億円をかける新工場を、ただ安く大量に豆腐を生産する工場にするつもりはありませんでした。「賞味期限が短い」、「製造に時間がかかる」という業界課題そのものを解決する工場を作り上げようと考えたのです。

そもそも豆腐はなぜ賞味期限が短いのでしょうか。雑菌は35~40℃で最も繁殖します。豆腐をパックに詰める作業は人が行っていましたが、そのままでは豆腐が熱すぎて詰められないため、水にくぐらせながらパックに詰めていました。そのときに雑菌が繁殖しやすい40℃程度になってしまうのです。もし熱々のまま豆腐を詰められれば雑菌は繁殖せず、賞味期限は伸びるはずです。

製造に時間がかかるのもこのパック詰めの工程が原因でした。豆を水につける⇒煮る⇒にがりを混ぜて寄せる⇒整形して切る⇒パック詰め、これらの工程の中でパック詰めだけが自動化できていなかったのです。何しろ、豆腐はやわらかく、機械で持ち上げてパックに詰めるなんて不可能だったからです。

鳥越氏はここに目を付けました。パック詰めさえ自動化できればいっきにこの2つの課題を解決できる、と。

パック詰めも自動化したフルオートメーション工場の誕生

悩みぬいた鳥越氏はある解決策をひらめきました。

豆腐を持ち上げてパックに入れるのではない。パックを持ち上げて豆腐にかぶせればいいじゃないか。

大志を胸に工場の建設にとりかかるも、そこは苦難の連続だったと言います。試運転したら、他工場と品質の違う豆腐ができた。連続稼働させたら途中から味が変わった。温度や湿度によって出来上がりが異なった。しかも、こんなフルオートメーションの豆腐工場は誰も経験したことがないので、機械の適切な微調整の仕方は誰にもわからず、四苦八苦。

1000項目に及んだという改善活動を続けて完成したのが、豆腐生産のフルオートメーションを実現した第三工場でした。

そして圧倒的な参入障壁が、この1000項目の改善活動によって築き上げられました。似た発想で機械を導入しても、どう微調整すれば一定品質の豆腐ができるのか、その制御ノウハウは一朝一夕で真似できるものではなかったのです。

完成した工場とともに大躍進

この工場が2005年に完成してから、10年で売上5倍。業界初の売上100億円企業どころか近年では200億円も突破しました。

これほどまでに成功を収めたのは、新工場の目的が「コスト削減」ではなく、「新しい価値の創出」にあったからです。

賞味期限の短い豆腐。完全機械化で、人の手では触れない熱々の状態のままパック詰めまで実施。その結果、雑菌の繁殖を抑えることができ、賞味期限が伸びました。

さらに冷却しないことで新鮮さが保たれ、味も良くなったと言います。

製造に時間がかかる豆腐。機械化できていなかったのはパック詰め工程でした。機械化によって生産時間の短縮にも成功しました。

味はよくなり、賞味期限は伸び、短時間で出荷できる。

安く大量に作ることだけを考えた工場とは一線を画しています。この業界課題に真摯に取り組み、無謀ともいえる設備投資を断行し、どの企業も生み出せなかった新しい価値を創出した。

これこそが相模屋食料の成功の要諦です。

なお、相模屋食料の熱い物語はこちらの本に詳細が載っています。ここ1年で読んだ本で最も価値ある一冊と言っても過言ではありません。ぜひ読んでみてください。

「ザクとうふ」の哲学

「ザクとうふ」の哲学

  • 作者: 鳥越淳司,夏目幸明(構成)
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/09/12
  • メディア: 単行本
 

コンサル業界が激務ってほんとなの?働き方改革って進んでる?実際どのくらい働いているかをお伝えしよう

ãæ¿åãããªã¼ãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

コンサルティングファーム。それは激務の代名詞。

激務で深夜まで仕事をしている。終電?何それ毎日タクシー。

それってどこまでほんとなの?盛ってるんじゃないの?と疑問に思っている人も多いかと思います。

これは、コンサルティング業界を志望している就活生、そしてコンサルティングファームで働く予定の内定者や転職者向けに、コンサルの激務度と働き方改革の現状をお伝えする、そんな記事です。

ちなみに私が激務・・というよりパワハラで潰れかけたお話はこちら。
(ヘビーな内容だから覚悟して読めよ!)

techhack.hatenablog.jp

どのくらい激務なのか?

激務激務と言われるコンサルですが、最近では働き方改革の波がコンサル業界にも押し寄せています。昔と変わらず仕事が終わらないと思ったら、終わるまで永遠に働くというマインドセットをほぼ全員が持っているため、プロジェクトの忙しさによっては永遠に働くことがあるものの、深夜まで仕事をする確率は下がり続けていると感じています。

肌感覚では、若手コンサルの激務割合は

  • 深夜残業・土日出勤当たり前人:15%
  • 0時くらいまでは仕事している人:20%
  • MTG前(週1~2回)は深夜まで、それ以外は21時くらいに帰る人:50%
  • 21時前に大体いつも帰る人:15%

って感じだと思います。私の場合、始発が動く時間まで仕事をしているのは年に10日もありません。

激務度はプロジェクトに依存する側面が強いですが、違うプロジェクトになっても同じ上司だと同じ働き方をするケースが非常に多いです。炎上上司として有名な人がどこのファームにも必ず数名いると思います。いかに彼らから逃げるかが、コンサルファームでの最重要生存戦略です。ここ、テストに出るのでみんな覚えておくように。

マネージャー以上は超激務

あれ、意外と激務じゃねえな!と思ったソルジャーなあなたに言っておかなければならないのは、中間管理職(マネージャー以上、だいたい6年目以降)は

「深夜残業・土日出勤当たり前:100% 以上」です。まじで。

マネージャー以上はいつ寝てるのかわかりません。そういう姿を見ているから、マネージャーになる前にかなり多くの人が会社を去ります。ちょうど30歳手前で、結婚・育児も関係してくる年齢ですし。

最も上のポジションの人たち(ディレクターやパートナーと呼ばれる役職)は、雲の上過ぎてイマイチいつまで仕事をしているのかわかりません。笑

見ている限り、シニアマネージャーとマネージャーが一番働いていると思います。結論としては、コンサルは中間管理職が地獄の激務。さらに中間管理職の激務度は近年の働き方改革で増加傾向です。以下で解説します。

働き方改革はどのくらい進んでいるの?

働き方改革と無関係のファームは存在しないといって間違いないです。この時代、ブラックと言われることは企業イメージにとって致命的ですから。

働き方改革で変わりつつあることは大きく2つです。

1. 遅くまで部下を働かせている上司の評価を下げる

マネージャーを評価する際、パフォーマンスだけで評価するのではなく、どれだけ効率的に働けているのか、が大きな評価基準になりました。クライアントから大いに評価されても、毎日3時まで部下を働かせているマネージャーはより問題視されるようになりました。

2. 若手には「遅くまで働くな!」というお達しが出るようになった

その結果、若手のコンサルタント(アナリスト、アソシエイト、コンサルタントなどと呼ばれる)には、遅くまで働くな!というお達しが出るようになりました。遅くまで部下が働いていたらマネージャーの評価が下がるわけですから、マネージャーが「働くな!」と繰り返すようになるわけです。

19時以降の会議は禁止、20時には帰ること、深夜の作業は禁止、などプロジェクトによってルールを決めることも増えてきているようです。

これは若手にとっては悪いことではありません。働くな、と言われて嫌がる人はあまり多くないでしょう。残業代もみなし残業で実質固定されているので給料も下がりません。

弊害としてマネージャーの激務度が増し増し

でもちょっと待ってください。仕事量は特に変わっていないのに、若手コンサルタントを早く帰らせたらどうなるのか。当然どこかにしわ寄せが行きます。しわが寄るのはマネージャーです。

「もう21時だから、あとの資料の修正はこっちでやっておくよ。お疲れ様。」

と若手を帰らせたあと、マネージャーは資料の修正を一人行うことになります。

古き悪しきコンサルファームでは、21時でも

「こんな資料、明日の会議で見せられるか!すぐ作り直せこの馬鹿!」

と資料を投げつけていたわけですが、このハラスメント時代にこんな暴挙をして部下からクレームが上がったら上司は即死です。

結果として、上司が若手の仕事を巻き取るケースは増加しつつあるように思います。

苦悩するマネージャーたち

マネージャーは自分の仕事を減らすために、いかに部下の仕事を手戻りなく進めさせるか、に焦点を移すようになります。ある程度仕事を任せて部下にやらせるのではなく、細かくToDoを分解して作業単位で部下に振り、アウトプットを確認する。こういったマイクロマネジメントが増えつつあります。

マイクロマネジメントでは、確かに手戻りは減らせるかもしれませんが、部下の成長につながりません。細分化された作業をこなすだけになってしまうので。

マッキンゼーで活躍された赤羽雄二氏の「世界基準の上司」には、部下をうまくつかう最適なマネジメントはマイクロマネジメントではないと書かれていました。

代わりに赤羽氏が提唱しているのが、最初に資料(アウトプット)の全体像を示し、各ページのメッセージレベルで意識を部下と合わせる。その上で、中身の作業を部下に振るというアウトプットイメージ作成アプローチです。

決してマイクロマネジメントではない。上司が何を求めているかできるだけ明確なビジョンを示し、部下がそれに沿って検討を進めていくアプローチであって、箸の上げ下ろしまで指示するわけでは全くない。

赤羽雄二著「世界基準の上司」より

激務なファームを改善し、マネージャーを含め持続可能な働き方ができるかは、まさにいまが勝負どころです。今は働き方改革のKPIとして「働くな!」を導入したものの、働き方自体は変わっていないため、しわ寄せがマネージャーの過労かマイクロマネジメントという形で顕在化している状態です。

部下のマネジメントに自信のある方、上を変えてやるという気概を持った若手の方、いますぐコンサルファームに来てください。

最後に脱線ですが「世界基準の上司」は、部下となる人こそ読むべき本だと感じました。上を変えるには下から、そして数年後に上に立つときにやばい上司にならないために。

また、若手コンサルタントのよくある失敗や資料作成の仕事イメージが湧くかと思うので、コンサルって何をやっているの?という人にもおすすめの一冊です。

それでは。

世界基準の上司

世界基準の上司

  • 作者: 赤羽雄二
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/中経出版
  • 発売日: 2015/02/28
  • メディア: 単行本
 

【2018年】コンサルがすすめるテクノロジーに強くなりたい人が読むべき4冊の本

AI、IoT、デジタル・・。テクノロジーの重要性がこれでもかと強調される時代になってきました。多くのビジネスマンにとって、テクノロジーの概要を理解し、それがどうビジネスに活用できるのか、どうビジネスモデルを変えるのかという点を知りたいといういニーズは高まっているのではないでしょうか。

曲がりなりにもコンサルタントとして、テクノロジーを活用した新規事業創出などを手掛けてきた中で、「この本まじでつかえるわ!助かったあ!」という本に何冊か出会いました。そんな本のベスト4を一挙大公開です。

未来のテクノロジーのロードマップを知りたいならコレ

2100年の科学ライフ

2100年の科学ライフ

2100年の科学ライフ

    【おすすめ度 ★★★★☆】
  • 作者: ミチオ・カク,斉藤隆央
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2012/09/25
  • メディア: 単行本

ニューヨーク市立大学理論物理学教授のミチオ・カク氏の著書。超ひも理論創始者の一人です。といっても難しい物理学の話が中心ではなく、2100年までに実用化されるであろうテクノロジーを学術的な視点と確度にもとづいて解説している本です。特に近未来、世紀の半ば、遠い未来と3つのフェーズに分けてテクノロジーのロードマップを示してくれているのも参考になります。

未来の技術を語る本は、自称未来学者による眉唾なSF本が多い印象なんですが、そういった本とは完全に一線を画しているのがこの本の素晴らしいところです。2012年発売とやや古い本ですが、5年先でなく100年先を見通しているものなので当分はつかえます。

個人的にはこの本を読んで得られた最大の示唆は、ムーアの法則によってハードウェアは安く効率的になっているが、ソフトウェアの開発はエンジニアがしこしことコードを書いて作っている。労働集約的なソフトウェア開発がAIによって代替されたとき、大きな変化が訪れる、という点でした。

解説されているテクノロジー

・コンピューター(ムーアの法則の未来、脳のスキャンなど)
人工知能
・医療(遺伝子操作など)
ナノテクノロジー
・エネルギー(水素エネルギー、核融合など)
宇宙旅行

といったところです。

テクノロジーのロードマップをつくれ!などと無茶振りされたときには、この本を見れば必ずよい情報を得られるでしょう。

テクノロジーを網羅した辞書ならコレ

世界をつなぐ100の技術 2019年版

日経テクノロジー展望2019 世界をつなぐ100の技術

日経テクノロジー展望2019 世界をつなぐ100の技術

    【おすすめ度 ★★★★☆】
  • 作者:日経BP
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2018/10/25
  • メディア: 単行本

毎年発売されている日経BP社にテクノロジー展望シリーズ。

ありきたりな情報しかないかな、と見下しているとそんなことはありません。これだけ網羅的に情報を集められている本は他にはないと思います。

これは、1ページ1ページ最初から最後まで読んでいくというよりも、知りたいテクノロジーを見出しから探してそこを読むという辞書的なつかいかたをするのに非常に向いています。

解説されているテクノロジー

・医療技術
ビッグデータ
・自動運転車
フィンテック
・バイオテクノロジー
・エネルギー
VR/AR
・IoT
・建設テック
・ドローン

といったところです。

もし上司から、「なんかXX業界の新しい技術にどんなものがあるか、ざっくり網羅的に知りたいんだよね」と言われたら迷わずこれを手に取りましょう。

ぜひ目次だけでも参照してみてください。

IoT×製造業を知りたいならコレ

インダストリーX.0

インダストリーX.0 製造業の「デジタル価値」実現戦略

インダストリーX.0 製造業の「デジタル価値」実現戦略

    【おすすめ度 ★★★★☆】
  • 作者: エリック・シェイファー,花岡直毅(監訳),井上大剛
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2017/08/31

 ドイツを中心に提唱され、話題を呼んだインダストリー4.0。IIoT(Industry IoT)等とも呼ばれていますね。IoTが製造業をどのように変革させるのかをアクセンチュアのマネジングディレクターである著者が詳細に解説しています。

この本を素晴らしい点は大きく2つ。

1つは、テクノロジー単体の解説ではなく、テクノロジーによってビジネスモデルがどう変わるのか、といった点まで踏み込んで説明している点です。例えば、IoTによって成果報酬型のビジネスモデルが可能になる、といったことが書かれています。

テクノロジー×ビジネスの勘所を掴むにあたっては非常に参考になる情報が多いです。

2つ目は、事例が多く載っている点です。例えば、成果報酬型のビジネスモデルの事例として、スペインのコメディー劇場が紹介されています。表情をモニタリングし、笑顔を検知し、客が笑った回数に応じて支払い料金が決まる、といったオモシロ事例です。

タイヤメーカーのミシュランの従量課金モデルなど、王道の事例も紹介されており、製造業×IoTの領域での様々な企業の取り組みを知ることができます。

これを読んでおけば、「インダストリー4.0」、「IIoT」、「デジタルツイン」といった話題になったとき、ああ、それでいうとあの企業がこんな取り組みを・・と知見の深さをアピールできるようになることでしょう。

宇宙のテクノロジー・ビジネスの決定版はコレ

宇宙ビジネス入門

宇宙ビジネス入門 NewSpace革命の全貌

宇宙ビジネス入門 NewSpace革命の全貌

    【おすすめ度 ★★★★★】
  • 作者: 石田真康
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2017/08/31
  • メディア: 単行本

最後は宇宙の本です。A.T.カーニープリンシパルである石田氏による1冊です。

正直いって宇宙ビジネスはこの一冊を読めばオールオッケーです。決定版です。私の上司がそう言っていましたし、東大で航空宇宙を専攻している院生の友達もそう言っていました。

中身もコンサルタントらしい構造となっており、同じコンサルタントとして参考になるところばかりです。素晴らしい。

どんな構造かというと、宇宙ビジネスの全体像⇒市場セグメントと主要プレイヤー⇒先進各国の取り組み状況、という流れです。特に最初に全体像を書いてくれているあたり、わかっていますね。全体像のポンチ絵まであります。感涙。

また主要プレイヤーの先進的な取組が紹介されているのも参考になります。低軌道衛星による衛星通信を展開するOne Web。衛星画像を解析するサービスを提供するOrbital Insight。メジャーどころのベンチャーもしっかり押さえられており、まさに宇宙ビジネスの決定版と言える仕上がりです。

宇宙ビジネス、宇宙テクノロジーを知りたいあなたは迷わず買うべき、いや買わなければならないMustの一冊です。

 

以上、個人的なベストテクノロジー本4冊でした。AIの仕組みとかが知りたいんだ!という人はごりごりの機械学習パターン認識の本を読むべきでしょうが、おそらく多くのビジネスマンにとっては、テクノロジーの概要を理解し、それがどうビジネスに活用できるのか、どうビジネスモデルを変えるのかという点を知りたいだろうと思い、この4冊をチョイスさせて頂きました。

みなさまの参考になれば幸いです。

【GAFA解説~Apple編】Appleは最も成功した高級ブランドである

GAFA、という単語が2018年の流行語大賞にランクインしました。ガーファと読みます。GAFAとは、GoogleAppleFacebookAmazonというデジタル時代を代表する4つの超巨大企業の頭文字をとったものです。

今更ながら、GAFAってなんでそんなに騒がれているのか、何がそんなにすごいのか、という点をスコット・ギャロウェイ著「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」という本を参考にしつつ、私なりに紐解いていこうと思います。

シリーズ第一弾は、Apple。というわけで早速スタート!

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

GAFAで唯一のモノづくり企業 Apple

AppleGAFAの中で異端の存在です。というのも、Appleだけがモノづくりを主軸とした企業なのです。他の企業は主にサービスを提供している企業です。

このデジタルでイノベーティブでデータこそが金脈と言われる21世紀においてモノづくりなんてナンセンス。ところがAppleだけは風向きが違います。

2018年9月では、Appleの売上は2655億9500万ドル(30兆円くらい)、利益は708億9800万ドル(8兆円くらい)で利益率は27%です。時価総額は1兆ドルに届こうかという勢いです。対して、例えばトヨタの利益率は8%です。モノを作っている企業としてAppleがいかに異常な利益を上げているかがわかります。

これだけの利益を上げるAppleの戦略とはどういうものなのでしょうか。

「高い価格で多く売る」が基本戦略

Appleの戦略を一言で説明すると「高い価格で多く売る」という点に尽きます。いかに利益率が高いかは説明した通りですが、特に2015年の第一四半期の決算はそれを象徴しています。その期間に全世界で出荷されたiPhoneは18%のシェアを獲得するにとどまりましたが、業界の利益の92%を占めました。

販売価格を見ても、Appleの高価格は揺らぎません。iPhoneは1台749ドル、格安メーカーのスマホなら159ドル、ブラックベリーなら549ドルです。

そう、Appleは単なるハード機器メーカーではないのです。徹底的に高く売ることにこだわってブランドを構築してきた高級ブランドなのです。その意味でいえば、トヨタよりもルイヴィトンの方がAppleに近いかもしれません。

なぜAppleは高く、そして多く売れるのだろうか

「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」の中で、スコット・ギャロウェイは高級ブランドが持つ共通の性質を5つ挙げています。以下の5つです。

  1. アイコン的な創業者
  2. 職人気質
  3. メーカー直営店
  4. 世界展開
  5. 高価格

この中で、特にAppleを象徴している性質は、アイコン的な創業者、メーカ直営店、世界展開の3つだと私は感じました。

1. アイコン的な創業者 - スティーブ・ジョブズ-

Appleを語る上で外せないのが、みんな大好きスティーブ・ジョブズの存在です。21世紀最高のカリスマです。離婚した娘の養育費の支払いを拒否しようが、苛烈な社内政治を敷いていようが今更そんなのは関係ありません。

ジョブズのストーリーを至高のものにしているのは、一度Appleを追い出され、その後カムバックを果たし、大成功を収めたという点です。創設⇒裏切り⇒復活というこのストーリー。裏切り&復活のストーリーを世界がどれだけ愛しているのかは、キリスト教を見ればわかります。

あまりに圧倒的なジョブズのカリスマイメージ。これらはそのままApple製品のイメージになりました。Apple製品をつかうことで、ジョブズ的な雰囲気、つまり「イノベーティブ」で「他者とは異なった存在」という雰囲気を纏える、そんなイメージが世の中に定着しました。

徹底的にシンプルさを追求したデザインもジョブズ的な雰囲気の増幅に貢献しています(本では「職人気質」の節で詳しく書かれているので気になった人は本を!)。Appleの価値は性能ではないのです。Apple製品を使っていると「イノベーティブ」で「他者と異なった存在」になったような気分になれる、それが価値なのです。

このブランドイメージは、競合他社との価格競争を回避し、そこそこの性能の製品を高価格で販売することを可能にしました。

3. メーカー直営店(高級感あふれる実店舗)

Appleを高級ブランド足らしめているのは、「ジョブズ的雰囲気」、「シンプルなデザイン」以外にもう一つあります。高級感あふれる実店舗での販売です。

21世紀に実店舗なんて時代遅れ。時代はECでしょ。

それはあなたがトイレットペーパーを買う時の話です。大量生産品を買う時には、楽で便利なEC、それこそAmazonで購入する人が多いと思います。では、ヴィトンの財布を買うときは?エルメスのバッグを買うときは?

私は社会人になってBVLGARIの財布を買うとき、銀座のBVLGARIの実店舗に行って買いました。間違ってもドン・キホーテの最上階で買おうとは思わないし、ECサイトで買おうとも思いません。実店舗の高級感あふれる空気感とハイクラスな雰囲気の店員さんと話しながら買った方が、自分がSomething Specialになれた気がするからです。

Appleは高級ブランドよろしく洗練されたデザインの店舗を出店しました。それもヴィトン、エルメスカルティエが立ち並ぶ一等地に展開したのです。他の高級ブランドで買い物をするとき同様、Appleで買い物をする姿は1つのステータスです。店舗をガラス張りの透明にして、道行く人にその姿を見せつけたくなるほどに。

実際Appleの戦術は成功しました。Appleの店舗の1平方メートル当たりの売り上げは、約5000ドルで小売業では最高とのことです。第二位はコンビニだそうですが、50%の違いがそこにはあります。

実店舗での高級感あふれる購入体験。これをもって、Appleは高級ブランドになったのです。

4. 富裕層をターゲットにした世界展開

しかし、高価格の商品を少量売っていたのでは、30兆円も売り上げは出ません。世界中でなるべく多く売る必要があります。というわけで世界展開です。

「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」のなかにこんな一節がありました。

"富裕層というのは、地上に存在する他のどんな集団より均質である。"

これ、私の感覚的に非常に腹落ちする言葉でした。どんな国においても、富裕層の嗜好って似たようなものだと私も感じています。ヴィトンやロレックスといった高級ブランドが世界中で展開されているのは、同じ好みの消費者がどの国にも存在するからです。

Appleは自らを1つの価値あるブランドとして世界に認めさせることに成功し、そのために世界中に存在する富裕層をターゲットとすることができ、世界展開が容易になりました。こんなに地域ごとのカスタマイズや商品開発なしで売れる商品も少ないのではないでしょうか。

これによってAppleは世界展開に成功し、高価格にも関わらず「多く売ること」に成功したのです。

まとめ Appleは最も成功した高級ブランドである

Appleが凄いのはテクノロジーではありません。Appleより性能の良いパソコンなんて他にいくらでもあるでしょう。

しかし、スタバで広げたいのはAppleです。イノベーティブな自分を演出するには、Appleの最新機種がふさわしいのです。今までは、着ている洋服、乗っている車、行きつけのレストランがステータスでした。Appleは、そこに持っているパソコン、スマホという新しいステータスの判断基準を創り出しました。

それこそがAppleが成し遂げた最大の功績なのです。

「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」では、Appleが構築した参入障壁についても詳しく解説がされています。よりAppleの詳細を知りたい人は、以下の本を参照してみるのもよいでしょう。

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

 
スティーブ・ジョブズ I

スティーブ・ジョブズ I

 

スーツボックス(suitsbox)がサービス終了した理由を考える

f:id:konnyakumaki:20181118035822p:plain

スーツのサブスクリプションサービスである「スーツボックス」のサービス終了が発表されました。2018年12月13日をもってすべてのBoxの手配を終了し、12月21日に会員ページも閉鎖するとのことです。

以前、「スーツボックスめちゃ良いよ!」的な記事を書いた私としては、非常に残念です。。スーツボックスって何だっけ?という方のために簡単に説明すると、月額1.8万円出せば、コーディネーターが考えたスーツ2着とシャツ3着とネクタイ2本が毎月送られてくるよ、新しいボックスが届いたら前のスーツたちは返却してね、というサブスクリプションサービスです。

料金別にいくつかコースもありましたが、詳しくは以下の記事を。

techhack.hatenablog.jp

なぜスーツボックスは、わずか半年で終わってしまったのでしょうか。
ここではその理由を考えたいと思います。

直接のきっかけはたぶん社長の交代

スーツボックスはAOKIの新規事業として開始されたサービスです。そのAOKIですが18年10月に中村宏明前社長が辞任し、新しく諏訪健治氏が社長に就任しています。どうやら新社長になり、方針の転換があったようです。

日経XTRENDでは以下のような関係者のコメントが書かれていました。

関係者によれば「社長交代後に新規事業の見直しが入った」という。suitsboxもその対象となったようだ。

AOKIが半年でサブスク撤退 新社長による事業見直しか:日経クロストレンド 

諏訪新社長、スーツボックスやめるってよ。
とはいえ、事業がうまくいっていればどんな社長になってもスーツボックスは継続されたはずです。何かしらの理由で事業がうまくいっていなかった、それを見咎めた新社長によって撤退の決定が下された、と考えるのが自然でしょう。

ではなぜ事業がうまくいっていなかったのでしょうか。
利益=売上-コストですから、利益が出なかった原因は売上が立たなかったかコストが抑えられなかったかの2択で考えられるはずです。いくつかの要素から考えて、コストが抑えられなかったという点が問題であったと私は考えています。順に説明していきます。

利用者が少なかったのか(売上が立たなかったのか)⇒NO!

スーツのサブスクリプション、というサービスが消費者の心を掴めなかったのでしょうか。私はそうは思いません。使った感じ、人に勧めたくなる良いサービスでしたし(単なる主観)。

主観は置いといて、客観的な事実から読み解いても利用者を集めることには成功していたのではないかと思います。

1. サービス開始前のクラウドファンディングは注目度高だった

スーツボックスは事業を本格スタートさせる前に、クラウドファンディングサイトのMakuakeにて支援を募っていました。資金を調達するというよりも、どのくらいのユーザーが関心を持っているのかを確かめるちょっとした実証実験としての側面が強かったようですが。

結果としては、3日で当初目標の100万円を突破し、最終的には約220万円を集めました。この時点では、AOKIの想定以上に注目度もサービスを利用したいユーザーの数も多かったと言っていいでしょう。

2. 申し込み多数による新規受付の停止をするほどの盛況

いざサービスを開始した後はどうだったのでしょうか。
なんと大盛況でした。18年9月から申し込み多数を理由に新規受付を停止するほど利用希望者は多かったようです。

18年7月の日経新聞でも申し込み好調が以下のように伝えられていました。

受注が好調で、当初は21年3月期に目指していた会員数1万人の目標を「1年前倒しで達成できる見込み」(経営戦略室の永沼大輔氏)という。

アパレルも「定額制」時代 レナウンがスーツレンタル :日本経済新聞

というわけで、利用者自体は順調に増加していたと考えてよいでしょう。
まさか1年前倒しも何も、1年持たずにサービスが終わるとは・・。諸行無常なり。

コストが高かったのか

利用者が順調に増えていたにも関わらず、事業撤退という結果になってしまったということは、売れれば売れるほど赤字が累積していく赤字の事業構造だったのでしょうか。

おそらくこちらが的を射ているでしょう。この事業モデル、利益を出すのも、そのためにスケール化するのも、両方ともかなり難しそうなのです。

どのくらい利益が出るのか計算してみよう

1. ボックスの中身は25万円相当

ちょっとシンプルに事業モデルを考えて、どのくらい利益がでるのか計算してみましょう。スーツボックスの中身(スーツ2着、シャツ3着、ネクタイ2本)の商品販売価格は、21~30万円とMakuakeでは説明されていますので、いったん25万円と考えます。なお、サブスクリプションの月額料金は1.8万円です。

2. 1万人の利用者にサービスを届けるには最低50億円分のスーツが必要

ここで、いま1万人の利用者がいるとします。最低でも必要なボックス数は1万個。しかし、スーツには夏物・冬物があるので、夏物1万個、冬物1万個の合計2万個が最低でも必要になります。

ボックスの中身は25万円ですので、2万個のボックス×25万円で50億円が原価となります。

なお、これは最高効率でボックスを回すことができた場合です。バッファのボックスは1個もありません。

3. スーツの耐用年数を3年とすると、17億円が減価償却

減価償却の目安として、スーツの耐用年数は夏物3年、冬物4年となっています。他の指標においても3年程度でスーツはダメになると想定されており、例えば全国クリーニング生活衛生共同組合連合会の「クリーニング事故賠償基準」では、スーツの使用年数を2~4年に設定しています。

さすがに3年以上着古して減価償却が終わった価値ゼロのスーツを着るのは利用者が嫌がると想定されます。ですので、3年経ったらスーツ刷新、というのが最低限のサービス水準として妥当でしょう。

3年ごとに50億円分のスーツを確保することになるので、年間の負担額は17億円と見積もります。

4. 配送とクリーニングで1回あたり3000円の負担

スーツを用意するのにも費用がかかりますが、配送とクリーニングにも費用もかかります。

これらはどのくらいかかるのかイマイチ勘所がないのですが、まず配送料は往復で計2000円くらいと置きましょう。60cmを超えるサイズで関東圏内だとクロネコ宅配便は片道1000円を超えてきますし、法人契約で安くなるとは言え、ユーザーは関東圏外にも一部いるであろうことを考えると往復で2000円くらいが落としどころかなと思った次第です。

クリーニングですが、これはAOKIならでは独自のネットワークや施設がありそうですし、そのへんのクリーニング屋さんに頼むより相当安く済みそうです。スーツ2着にシャツ3着にネクタイを合わせて・・、いやわからん!1000円くらい?そうしよう、そうします。

というわけで配送とクリーニングで3000円の費用がかかります(言い切る勇気)。

5. 1万人の利用者がいると、年間で利益1億円

月額料金は1.8万円でした。配送とクリーニング代の3千円を抜いて、1.5万円がAOKIの手元に残る金額です。

年間の売上は、1.5万円×1万人×12か月=18億円となりました。 

スーツに年間17億円かかる計算でしたので、1万人のユーザーがいれば1億円の利益が毎年出せそうです。

気を付けてほしいのは、これはベストシナリオという点です。

ボックスの返却が遅れる利用者が多くてボックスが足りなくなった、という事態も十分に想定されますし、バッファとして多めにスーツを用意する必要があるはずです。なので、2万個のボックスでは対応できず、2万個を大きく超える数が必要になるでしょう。2万個の2%の400個をバッファとして持つだけで赤字転落になります。アーメン。

そうなってくると、赤字の可能性が極めて高いと言わざるを得ません。少なくとも店頭販売したほうが儲かります。

また後述しますが、コーディネーターの人件費やボックスにスーツを詰める作業にかかる費用、広告宣伝費・・・、ここで考慮していない諸経費はたくさんあります。

25万円のボックスでは赤字待ったなしだと思われます。

サブスクリプションで儲けようとするなら、安いスーツを提供して原価を抑えるしかないのですが、例えば3万円のスーツ(中古)を毎月2着着るために2万円出しますか?という話になってきます。

更なる問題点 コーディネーター不足

さらにスケール化するにあたって、重大な問題があります。それは人材不足です。

スーツボックスでは、利用者のリクエストに応じてコーディネーターがスーツ・シャツ・ネクタイのコーディネートを考え、おすすめポイントをそれぞれの会員ページ上で解説してくれます。「トレンドのXXカラーをベースにさわやかさを出すようシャツとネクタイには鮮やかな色を組み合わせています。」みたいなコメントがそれぞれのコーディネートについてくるんです。

つまりこれ、めちゃめちゃ労働集約的な作業をしているわけです。

これやばくないですか。しかも目標1万人って。1人スーツ2着だとして、コーディネートは2万通り。ユーザーのリクエストを読んで、コーディネート考えて、コメントを各ユーザーに送る×2万回。30分で1コーデやるとしても、コーディネーター1人あたり16コーデ/日、320コーデ/月。2万コーデ対応には、63人の専任コーディネーターが必要です。

この仕事やりたい人っているでしょうか?いないと思います。

いたとしても63人もコーディネーターを雇ったら大赤字です。

店舗スタッフに空き時間にやらせる、という方法もあるかもしれませんが、持続可能性に?です。AIにやらせるしかなさそうです。

結論 利益が上がる仕組みを整える前の見切り発車だった

サブスクリプション向けにスーツを回すよりも普通に店頭販売した方が利益が上がる。

スケール化しようとしても、コーディネーター不足に直面して無理。

⇒スーツボックス、やめようか

ユーザーを惹きつけるサービスができていたか、という点に関しては、利用者が多く集まったことから及第点に達していたでしょう。実際、私も使っていて楽しく、まわりの人に勧めたくなるサービスでした。

しかし、利益が上がる仕組みにはなっていなかったのでしょう。しかも、スケール化してこれから利益が上がるんだ!という方向性もコーディネーター不足で見込みが薄い。音楽配信サブスクリプションなどと異なり、スケール化しても限界費用が小さくならないビジネスモデルであるため、サブスクリプションにはあまり向いていなかったと言わざるを得ません。

せめてスモールスタートでデータを収集して、コーディネートはAIが考えてくれるんです、という形での本リリースにまでもっていけていたら。余剰在庫の活用で十分に利益が出るほどに原価を抑えられていたら。うまくいったかもしれません。

もしかすると前社長が功を焦ってとにかく実績がほしいということで、利益が出るビジネスモデルをきちんとつくる前に見切り発車させたのかもしれません。

コンセプトは面白かっただけに、事業終了は残念です。

この教訓を活かして、そして下の本面白かったからこれでサブスクリプションモデルのビジネスモデルを勉強して、次のリベンジを!AOKIさん!待っています!

 

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

 

スーツボックス(suitsbox)を利用してるのでレビューを書いてみる

f:id:konnyakumaki:20181015025353j:plain


シェアバイクで通勤し、Uber Eatsで飯を食う。

どうも、シェアリングの申し子です。

先月(2018年9月)から、スーツのサブスクリプションサービスである「suitsbox」を利用しているので、どんなサービスなのか、そして利用してみた感想などなど、ここで書きたいと思います。
(*一時的に新規受付停止(2018年10月現在)してるみたいだけど、きっとすぐ再開するよ!)

スーツのサブスクリプションってなんぞ?

サブスクリプションとはなんぞ?という人もいるでしょうが、昔からあるわかりやすい例でいえば、雑誌の購読とかがこれにあたります。

毎月、定額料金で新しい雑誌が勝手に家に届く。
このスーツ版が、スーツのサブスクリプションになります。

つまり、毎月新しいスーツが家に届きます。
私が利用中のコースだと、毎月2着スーツが届きます。そして代わりに先月届いたスーツを送り返します。

ちなみに「スーツが届く」と言っても新品のスーツが常に届くわけではありません。基本的には既に誰かが着たことのあるスーツがクリーニング等のメンテナンスをされた上で届くことになります。初回は私のもとには、糸がついたままの新品が届きましたが。笑

類似のスーツのサブスクリプションサービスだと、Durbanでおなじみのレナウンも「着ルダケ」というサービスを展開していますが、そちらは毎月新しいスーツを着れるわけではなく、2年間で4着のスーツ提供といった形です。

着ルダケは、新品のスーツを届けてくれますが、種類も5種類からの選択となっており、スーツボックスと比較するとちょっとバリエーションも乏しい印象です。
 

どこがやってるの

スーツボックスを展開しているのは、皆さんご存知「AOKI」です。世界のAOKIです。

なので、スーツのバリエーションと品質には安心感があるように思います。
 

いくらするの

サブスクリプションのコースは3つから選択できます。

Economy:7800円(税抜き)、スーツ1着、シャツ1枚、ネクタイ1本

Light  :15,800円(税抜き)、スーツ2着、シャツ3枚、ネクタイ2本

Standard:24,800円(税抜き)、スーツ3着、シャツ5枚、ネクタイ3本

ちなみに私はLightコースを利用してます。既に2~3着くらいスーツを持っていれば、2着届けば毎日違うスーツが着れますし、値段的にもLightが一番コスパいいかなと思って個人的にはおすすめです。

どんなスーツが届くの?

スーツ、シャツ、ネクタイは専門のコーディネーターさんがチョイスして送ってくれます。スタイリングは大きく3種類から選べます。

「ベーシックスタイル」
暗めな色や目立たない柄が多い。地味にならないようにベスト・チーフ付きが多め。

「トレンドスタイル」
明るめな色や目立つ柄、ダブルなど強いトレンド性が強め。

「ジャケットスタイル」
幅広い色と柄を、上下セパレートで提供。

色の希望や職業柄こういうのはNG、などは文章で伝えられます。

「クールで知的な感じでお願いします!」とか送ったのは私です。

どの価格帯のスーツが届くの?

 届くスーツの価格帯ですが、7~10万円くらいのようです。
スーツボックスがMakuakeというクラウドファンディングで実験的に資金調達(AOKIの新規事業なので、資金調達というよりも関心のあるユーザーの層なんかを見極める狙いが強かったみたいですが。)していた際に以下のような記載がありました。

①高品質、高機能、ワンランク上のアイテム

『suitsbox』では、優れたスーツをたくさん着て、ビジネスライフを一段格上げしていただくことを目指しています。
そのため、提供するセットは販売価格にすると70,000円~100,000円台を中心とし、高級・高品質インポート生地、有名国内工場での縫製、高機能性素材、高機能加工などを備えたアイテムを提供します。(※一部異なる商品もあります)

www.makuake.com

 

配送と返品は?

配送ですが、家に大きめの段ボールのボックスで届きます。宅配ボックスには入らないでしょうね、はい。

返品は、基本的に次のスーツが届いてからで問題ありません。前月に送られてきたボックスに詰め直して郵送する形です。特にシャツやスーツをクリーニングして返す必要はありません。

実際つかってみてどうなの?

説明が長くなりましたが、ここから実際に使ってみての感想です。

いいところ

・マンネリ化の全撤廃
スーツって、この人は大体いつもこれ着てるな、みたいな固定的な印象がありません?よほどおしゃれな人じゃないと、そんなに何着もスーツ持ってないですしね。

とあるアンケート調査によれば、日本のサラリーマンは4~6着くらいのスーツを平均的に持っているらしいです。夏服と冬服、それぞれ2~3着といった感じでしょうか。
1シーズン3着のスーツをずっと着ていると、そりゃあこいついつもこれ着てるな、となるわけです。

スーツボックスだと毎月2着新しいスーツが届きます。
これスゴくないですか。
こいついつもこれ着てるな、がなくなるわけです。
毎月、2着もスーツが変わるなんて、もうそのへんのお洒落さんを凌駕できます。

・オシャレ
普通にオシャレです。
スーツ、シャツ、ネクタイ、この組み合わせをプロが選んでくれます。
ここがポイントですよ、的なコーディネーターのコメントが自分のアカウントページで見れますし、送られてきたスーツ、シャツ、ネクタイのおすすめコーディネート例も写真で見れるわけです。
なかなか自分じゃ選ばないスーツにも勝手に挑戦できちゃうわけで、プロが選んでるし、というお墨付きも何だが自信をもって着れる感じ。

ああ、おしゃれ。自動でおしゃれ。

 

・季節に応じたスーツが手に入る

みなさん、秋用のスーツ持ってますか?
私は持ってます、そうスーツボックスだからね。

毎月送られてくるので、季節に応じたいい感じの厚みの生地のスーツが届きます。夏と冬の二択ではなく、その中間の生地のスーツが着れるのは嬉しいところです。

 

・クリーニング問題の解決

スーツ、いつクリーニング出そう。。
これから解放されます。毎月クリーニングに出してるようなものですし、スーツの数が増えるので、もともと持っていたスーツも余裕をもってクリーニングに出せます。

よれよれのスーツとこれにてお別れ。

・良い話題になる

 実はこのスーツ、サブスクリプションなんすよ。
結構、食いつき良い人が多いです。最新のビジネスモデルに乗ってるアーリーアダプター感も悪くないぜ。。

 

悪いところ

・ちょっと高い

15,800円。やっぱちょっと高いですかね。
届くのは安いスーツでいいから、1万円くらいの価格帯でサービス提供があると最高かも。

ただ、個人的には上で述べた良いところを踏まえれば、十分なコスパかなと思ってます。今持ってるスーツにもなんだかんだ、1着5万くらい出してますし。


・サイズぴったりを一発で引き当てるのムズイ
自分は平均体形なので、それほどサイズ感には困ってません。
が、最初に注文したときはシャツのサイズがやや大きかったです。

ちなみにスーツは、股下なんかは測ってそのサイズで希望を出します。
初月はサイズ交換無料ですし、サイズの変更も次の配送までに伝えれば次からは反映されるはずなので、そこまで困ってもいなかったり。 

 

・返品ちょっとめんどい

うん。ちょっと面倒です。

 

今後の展開

これ、いいサービスだと思うんですが、スケールするのが大変そうです。
なんでかっていうと、今のままだとスケールするにはコーディネーターの数をめちゃめちゃ増やさないいけないからです。

スケールするために方法は1つ。AIがコーディネーターになればいいわけですね。
AIがおしゃれなスーツ、シャツ、ネクタイの組み合わせを学び、即時にお客さんの希望に合ったコーディネーターを提案する。

AOKIもAIのような技術活用を重視しているらしいので、まずスモールスタートでデータを貯めつつ、ユーザーのニーズやどのくらい売り上げが立ちそうかなんていったところを見ているのでしょうね。

使っていて便利で、テンションも上がるのできっとこういうモデルは増えるんだろうと私は思っています。AIコーディネーターと高級&定価価格サービスが出れば、いっきに普及しそうかなあ。

みなさんもぜひお試しあれ。